2016.04.24

目先の成果を問わない

こんにちは、大阪発公会計ブログ担当の船戸明(公認会計士)です。

 先週に引き続き、平田オリザさんの『下り坂をそろそろと下る』(講談社現代新書)から。

 場所は兵庫県豊岡市。城崎温泉街の町外れに、「城崎国際アートセンター」という施設があるそうです。その誕生に至った経緯を、平田さんの記述から紹介します。

「豊岡市と合併した城崎の温泉街の町外れに、兵庫県立城崎大会議館という施設があった。一〇〇〇人を収容できるコンベンションセンターだが、残念ながら稼働率は極端に低かった。建設当時は、大会議場を作れば様々な学会や労働組合の大会などを誘致でき、周辺の旅館業も潤うと考えたのだろう。しかし残念ながら、その目論見は見事に外れた。開館以来、一度も一〇〇〇人の定員を満たしたことはなく、寂れる一方となっていた」(P.54-55)。

 で、兵庫県はこの施設を豊岡市に払い下げた。その使い道を考えているとき、中貝宗治市長が、ふと、劇団やダンスのカンパニーに貸し出してはどうかと思いついた。

 そこで平田さんも関わりを持ち始め、半年間の地元の方たちとの協議の結果、「城崎国際アートセンター」が誕生したそうです。

「関西で先進的な仕事を続けている「いるか設計集団」が改装を担当し、低予算で、質実剛健はリニューアルが実現した。外見も、かつての外観を一新させて、黒作りのセンスのいい建物に生まれ変わった。六つのスタジオと、最大二八名が泊まれる宿泊施設や自炊設備を完備した国内最大級のレジデンス施設(宿泊施設を備えたアートスペース)が誕生した」(P.56)。

 施設利用料は完全に無料。
 審査に合格すれば、3日間から最大3か月まで滞在可能。

 そんな施設の特徴を、平田さんはこうおっしゃっています。

「この施設の最大の特徴は、今どきの公共施設では珍しく、「短期的な成果を問わない」という点にある。作品を創らなくてもかまわない。たとえば私のような劇作家が「構想中です」と言い続けていれば、何もしなくても三ヵ月滞在していてかまわない」(P.57)。
 
 
 なぜこうした取組が可能になったのかは、本書に詳しいので省略しますが、もちろん温泉の存在や、志賀直哉の『城崎にて』も大きな財産です。

 ハードよりソフト、と言われますが、もっとも重要な点は、平田さんの記されている「短期的な成果は問わない」という姿勢だと思います。正反対の声はよく聞きますが、果たしてうまくいっているのかどうか。もし短期的な成果を求めてうまくいくのであれば、当たり前ですが行政が行なう必要性は乏しいのではないでしょうか。

 今度城崎に行く機会があれば、「城崎国際アートセンター」に立ち寄ってみたいと思います。


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