2023.05.13

損益トントン

こんにちは、大阪発公会計ブログ担当の船戸明(公認会計士)です。

 新聞を読んでいると、時に、「おいおい」という表現に出会います。

 昨日(5月12日、金曜日)は3月決算会社の決算短信公表ピークだったのでしょうか。今日の日本経済新聞には決算関連記事が多く掲載されていました。ほとんど読んでいませんが、丁寧に読めば「損益トントン」という言葉が1つくらい出てきたかもしれません。まだ監査法人に勤務していた頃、日経新聞で「トントン」という言葉を見たので公式な言葉なのだと思い、監査調書に「損益トントン」と書いたら、先輩会計士に突っ込まれました。調書に「トントン」はないだろう、と。

「関西弁で費用を全部回収できたけど利益が出ていない状況を「損益トントン」といいますが、損益分岐点売上高はまさに「損益トントンになる売上高」のことをいいます(税務研究会「ZEIKEN PRESS」より)。関西弁? 本当に? 日経新聞が関西弁で語っていた? さすがにあり得ないと思うのですが※。

 別の話題で。今日の日経新聞2面を見ると、「高度外国人材 滋賀で急増」というタイトルが目に留まりました。「トントン」という言葉は好きなのですが、「高度」も「人材」も嫌いです。かつて、「高度人材」という表現について、こう書きました。「高度人材の受け入れを加速とか、人材、という言葉も使いたくないのに、まして高度も何もあるものか。こっちの社会だとか経済だとかの勝手な都合で人を格付けするもんじゃないだろう」(2017年4月9日エントリー)。

 今も同じ思いですが、もう1つ、高度という表現に抵抗がある理由を今日の記事で発見しました。「在留資格のうち「教授」「高度専門職」「経営・管理」「法律・会計業務」「医療」「研究」「技術・人文知識・国際業務」を高度外国人材と定義」(13日、日経)。

 なるほど、だとすると、もし逆の立場で私が入ってくるとすると、会計士・税理士ですから「高度人材」なのでしょう。ごくごく単純に、定義の問題として。でも、その実、自分が高度な仕事をしていると思ったことは1度もありません。もちろん、M&Aや組織再編や国際税務など、専門性の高い業務を得意としている会計士や税理士がいるのも事実です。でも、こと自分自身に関して、「高度人材」などと呼ばれようものなら、「とんでもありません」と言って隠れてしまいたくなると思います。

 つまり、会計士・税理士と言えば、世間的には「高度人材」と定義される。ただ、うまく伝わらないと思いますが、自分の仕事はとても「高度」と言えるものではない。いや、高度と胸を張る仕事ができないといけないのでしょう。それはさておき、定義と実感の差が大きすぎる。「会計業務」という分野1つとってもこう感じるのですから、他の分野でも同じように感じる人はいるでしょう。

 結局、外国人の受け入れに「高度外国人材」などという定義を採用するということは、1)こちらの都合で受け入れる人を選別します、2)でも選別能力はないので職種で一律に判定します、と宣言しているということ。少し恥ずかしくないでしょうか。誰にとっても、ウィンウィンにもトントンにもならないと思う。

 で、なぜ滋賀なのか(←記事タイトルから自然に浮かぶ疑問)。近江商人の話が出てくるのかと思いきや、記事を読んでもよく分かりませんでした。企業や行政の具体的な取り組み事例は紹介されています。でも、それは分子の話。つまり、具体的な取り組みなら他の都道府県でも個別に行なわれているはず。滋賀県の風土として何があって、その考えが行政との連携もあって県全体に浸透していることで、母数に対して取り組み事例(分子)が増えている。という話なら理解できますが、そういう分母や全体像は見えてこない記事でした。

 でも、疑問に1つ道筋ができたのですから、それ以上に望むことはありません。


※やはりありました。「曙ブレーキ工業が12日発表した2023年3月期の連結決算で、純利益は前期比76.9%減の9億6000万円となった。2024年3月期の最終損益はトントン(前期は9億6000万円の黒字)を見込む」(12日、日経)。


CONTACTお問い合わせ

PAGE TOP