2023.01.28

前例踏襲の是非

こんにちは、大阪発公会計ブログ担当の船戸明(公認会計士)です。

 かつて、自治体で仕事をしていたときのこと。会計業務の中で、存在意義が分からなかったり、明らかに分かりにくかったりする資料について真意を尋ねると、「前からこの様式でしたので」という回答が殆どでした。ただ、その自治体は柔軟で、丁寧に説明し意義を理解してもらえれば、資料の様式を変えたり廃止したりすることに躊躇なし。間に立って調整してくださる方がいたおかげもあり、こちらの主張に対して変な抵抗を受けたことはありませんでした。

 強調しますが、前例踏襲は何も自治体に限ったことではありません。自分の生活にも、仕事にも、前例踏襲の思考や行動はあらゆる場面に登場します。つい最近も、自宅前に車を横付けして停める際の新しい方法を発見。これまで、1度駐車スペースを通り過ぎてバックで納めていましたが、通り過ぎずに前進で駐車できる方法に改めました。きっかけは、自宅前に別の車が止まっていたこと。1度通り過ぎるスペースがなかったので、そうではなく納める方法を試してうまくいったのです。おかげで1度切り返す手間が省けました。これも、10年以上、無意識のうちに前例踏襲を続けていた一例でしょう。

 政治学者で、『政治学者、PTA会長になる』という著書もある岡田憲治さん。既に任期を終えて会長は退任されていますが、昨今、PTA解散が話題になり、あるべき姿を模索する動きが報じられる中、25日の日本経済新聞にインタビュー記事が掲載されていました。「平日の日中に役員会や地域行事があるなど、フルタイムで働く人にはハードルが高かった。他校の式典への出席、運動会での来賓へのお茶出しなど、前例踏襲で続いてきたものも多い。メールで済むことを紙の文書でやりとりする非効率な面も目立った」(25日、日経)。

 なぜ前例踏襲になるのか。「背景には日本の教育もある。画一的な学習や受験勉強に追われ、与えられた課題を真面目にこなす子どもが優秀とされる。こうして育ってきた大人は前年通りに活動しないと不安に駆られてしまう」(同)。あと、自分で何かを変えたくない、つまり変えた結果起きる責任を負いたくない、という思いもあるでしょう。

 で、政治学者はどうしたか。「役員や保護者に『PTAは仕事ではない。生活の延長であり、家族の暮らしを優先してほしい』と呼びかけた」(同)。任意団体の自治組織である以上、自由に出入りでき、幸せづくりのための仲間であり、自分たちで決めることが重要なのだと。時代が変化していれば、その変化に合わせて組織のあり方も変えていく必要があるでしょう。

 注意が必要なのは、PTA解散が是か非かのような話になること。二者択一の選択肢は分かりやすいですが、多くの場合、答えはその間のゾーンにある。あるいは、仮に二者から選ぶにしても「自分たちで考えて決める」ことこそが重要でしょう。公立小中学校の統廃合について、鳥取県知事や総務相を歴任した片山善博さんも語っています。「あくまでも設置者である市区町村が国の指針を参考に、自分たちの問題として自分たちの責任で決めればいい。結論は『小規模でも地域に学校を残す』でもいいし、『将来の子どもの数を考えて統合する』でも、どちらでもいい。重要なのは地域の教育をどうしていくかを、地域が真剣に考えることだが、それができていない」(28日、日経)。

 二者択一だと、どちらになっても、100%賛成はあり得ない。その中で、誠意を持った説得をできるかどうか。反対意見にも耳を傾ける覚悟を持てるかどうか。いや、もっと気楽に、間違えれば修正すればいい、という空気を醸成する必要があるのでしょう。「空気」で動くのが、私たちの国のようですから。

 前例踏襲=非、ではありません。そう勘違いすると、前首相のような学術会議問題が起きてしまう。単に前例だからという理由で現状を破棄してしまう行動は、何も考えずに前例踏襲するよりひどい結果をもたらすこともあるのです。


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