2022.03.20
マスクが消えた
こんにちは、大阪発公会計ブログ担当の船戸明(公認会計士)です。
前月残高に、当月計上を加えて、当月回収(支払)を差し引くと、当月残高が計算できる。売掛金や買掛金の基本構造で、当月残高が正しい数字かどうかを検証しなければなりません。正しく回収できたか、支払いできたか、は事業活動の基本中の基本です。残高の「理論値」となるのが、「当月残=前月残+当月計上-当月決済」という公式でしょう。いや、基本構造や公式と大げさに考える必要はなく、小遣い帳です。
在庫(棚卸資産)も同じ。「当月残高=前月残高+当月計上(製造・仕入)-当月使用(出荷・売上)」で、理論在庫が計算されます。そのうえで、実地棚卸を行ない、実際の在庫量を把握したうえで、理論値と突合する。ずれていれば原因を検証し、ずれについて適切な会計処理を行ない、最後は、実地棚卸に基づく実際の数字に合わせます。
売掛金も、在庫も、もちろん理論値と実際量が整合していることが望ましいのですが、ずれが生じることもしばしば。売上の計上漏れ、売掛金の回収漏れ、在庫の紛失、など。最後は実際の残高に合わせるにしても、その前提は、ずれが少額であることでしょう。あまりに多額であれば、詳細な検討が必要です。
53/8272=0.6%。単位は金額ではなく枚数(万枚)ですが、アベノマスクが消えているという報道がありました。「後藤茂之厚生労働相は18日の参院予算委員会で、政府が大量の在庫を抱える布マスク「アベノマスク」について、約53万枚が記録上配布されていないにもかかわらず、実際の在庫に存在していないことを認めた」(18日、毎日新聞)。
総在庫量が8000万枚超。ないとされるのが53万枚。あるのも異常、ないのも異常、そもそも作ったことが異常。最初から最後まで異常尽くしのマスクですが、0.6%は一般的には少量です。ただ、少量と割り切れないのは、政府の事業には税金が使用されているから。所得税の確定申告が終わり、3月決算会社の決算時期も迫ってきている。日常的に税を仕事の対象にしている税理士ですから、その使途には敏感にならざるを得ません。
53万枚が存在しない理由は、1)もともとなかった(入庫の記録混乱)、2)あった53万枚の配布記録漏れ(出庫の記録混乱)、3)倉庫からの盗難・紛失、のいずれか。あるいは、理由は1つではなく、複合的に絡み合っている可能性も高いでしょう。
なくなるのは、関係者がなくなってもいいと考えているから。そもそも製造の時点で、誰もが無駄と分かっていた。配られても、いったいどれくらいが利用されたのだろう(私は記念に未開封で保存しています)。8000万枚余っても、ほとんどの人は無料でもいらないと考える。と思ったら、2億8000万枚の配布希望があったのだとか。
「在庫を上回る配布希望があったため、配布方法は1カ月ほどかけて検討するという。先着順にはせず、1人あたりの配布枚数に上限を設ける案などがある」(1月31日、朝日新聞デジタル)。
一度決めたら、後戻りできない。税金の無駄づかいより、あるものを捨てるもったいなさを重視する。あるいは、ものにも魂が宿るという信仰なのか。無駄な仕事は、あらたな無駄を生む。アイデアと疲弊は紙一重。いろいろな教訓を残したマスクは、世界がマスク着用義務撤廃に動く中、どのような最後を迎えるのでしょうか。