2021.08.15

無理のない範囲で

こんにちは、大阪発公会計ブログ担当の船戸明(公認会計士)です。

『チョンキンマンションのボスは知っている』
(小川さやかさん、春秋社)を読みました。

 香港にあるチョンキンマンション。
 そこに住む中古車ブローカーのタンザニア人、カラマ。
 アフリカと中国・香港を、
 どう橋渡しして、どう商売して、どう生活しているか。

 互いに信用していない。
 信用の欠如を前提にしたビジネス。
 だからこそ生まれる信用がある。

 互いの生き様には深入りしない。
 様々な事情を、そのまま受け入れる。
 無理なく、何かのついでに、手を差し伸べる。

 ネットサーフィンもSNSも楽しむ。
 群れていても、基本的には個々の世界。
 楽しんだことが結果的に仕事につながれば嬉しい。

 日本から話を聞きに行く。
 そういう人すら自分たちの商売に巻き込む。
 それによって負い目を感じさせないという気遣いでもある。

 ブローカー同士、互いの客を侵犯しない。
 ただ、情報や人間関係や取引先やビジネスのコツはコモンズとしてシェアする。
 報酬にならないことも、ついでに走り回る。

 カラマたちのやり方が非効率に見えた小川さんは、
 一度、メルカリやヤフオクの仕組みを説明したそうです。
 ただ、その勘違いに気づいたのだとか。

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P.161-162

・・・「効率性」を追求して、彼らのプラットフォームを市場交換に適した形に洗練・制度化させていくことは、本来の目的であった「気前よく与える喜び」「仲間との共存」「遊び心やいたずら心」「独立自営の自由な精神」の価値より経済的価値を優先させていくという矛盾を生起させる。

 親切にすることは他者への共感や仲間との共存のためであり、それが「商売」にもつながったら喜ばしいし、幸運なことである。しかし「商売」のために仲間を格付け・評価したり、仲間を増やす競争が目的になったりしたら、親切にすること自体が味気ないものになる。ネットサーフィンして仲間を笑わせることのできるコメディ動画を探すことや多くの仲間から称賛される自撮り動画を流すことは「遊び」「楽しみ」であり、ついでに「仕事」にも活用しているだけで、「仕事」のためにネットサーフィンしたり、自撮り動画を流すことになったら、せっかくの楽しみがつまらなくて面倒くさい時間になってしまう。

 考えてみれば、「楽しくない」「面倒くさい」といったごく自然な実践的な感覚や、取引実績や能力で友人を格付けするのはおかしいといった平凡な公平さでもって、敢えて「カオス」であり続けることに、市場交換と贈与交換や分配の価値が逆転しない接続のしかたがあるように思う。
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 じっくり考え続けたい言葉に満ちた1冊です。


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