2017.10.22

資産価値を見る目

こんにちは、大阪発公会計ブログ担当の船戸明(公認会計士)です。

 先週、自治体の資産の話を少ししました。

 直接は関係ないのですが、神戸女学院大学名誉教授の内田樹先生が、その大学校舎について、面白い話をされています。何度もいろんなところで書いたり話したりされていますが、今日は2014年12月に行なわれた講演会の言葉を引用しておきたいと思います。

 長い引用で手抜きと言われればその通りですが、数字で測れないものを測る・察知することについての重要性は、何度強調しても強調しすぎることはないのではないでしょうか。

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『日本の覚醒のために』
 晶文社、P.92-93

 これまでに何度もした話ですけれど、いまから20年以上前、僕が神戸女学院大学に勤め始めて4年目の時、ある銀行系のシンクタンクが入ってきて、大学の財務内容についてコンサルティングをしたことがありました。その時に、神戸女学院の建物を見て「この建物は無価値です」とゼロ査定した。「築60年の建物なんか、これから先、修理や耐震工事とかで金がかかるばかりだ。こんな建物を維持してゆくのはドブに金を捨てるようなものです」と言い切った。

 神戸女学院の学舎は、ウィリアム・メレル・ヴォーリズが設計した建物の中でも屈指の傑作です。外形的に美しい建物であるというだけでなく、中にいると心が鎮まります。声の通りもすばらしい。その建物で日々を過ごしている人間たちの実感をコンサルタントはみごとに無視した。彼らがカウントしたのは、坪単価とか築年数というような数字だけでした。そして「無駄だから壊せ」と言った。もちろん、教授会はその提案を一蹴しました。

 コンサルタントたちがその価値をゼロ査定したヴォーリズの校舎は2014年、国の重要文化財に指定されました。現役の校舎としての指定は珍しいものです。今もその校舎の中で研究教育が行われて、礼拝が行われ、クラブ活動が行われている。そういう環境の中でキャンパスライフが送れるということは、生徒学生たちにとってはほんとうに得がたい幸運だと思います。でも、いずれ重要文化財に指定されるような建物の価値がこのコンサルタントたちには感知できなかった。それが僕には信じられないのです。だって、この建物が他と違う、特別なものだということは、建物の中に一歩足を踏み入れれば誰だってわかるはずのことだからです。空気が清浄で、粒子の肌理が細かくて、そこにいるだけで心身が調うことが実感される。にもかかわらず、このビジネスマンたちにはそれがわからなかった。世の中に彼らの手持ちの金勘定の道具だけでは価値が考量できないものがあるということがわからなかった。

 でも、そういう愚かな人間たちがいまの日本社会を支配しています。いまの日本人に一番欠如しているものはそれです。霊的感受性が鈍麻している。霊的に浄化された空間に踏み込んだときに、ここは世俗とは別の場だということさえ感知できない。


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