2017.04.09

働きに行きたい国

こんにちは、大阪発公会計ブログ担当の船戸明(公認会計士)です。

 3月29日の日本経済新聞に掲載された「外国人材を考える 「働きに行きたい国」めざせ」という一橋大学准教授森千香子さんの論考は、考えさせられる内容でした。

 国際社会学・都市研究を専門とする森さんは、以前聞き取り調査であった方に、半年ぶりに再会。その方は10年前にコロンビアから渡米し、ニューヨークでナニー(プロの育児業)を続けておられるのだとか。

 この半年の間に起こったことは、トランプ大統領の就任です。

「トランプ氏が勝って以来、怖くてたまらない。毎朝出かける時、今日こそICE(移民税関捜査局の略称)に捕まるのではないか、明日にはここにいないのではないかと思う」。

 森さんは言います。

「筆者が聞き取り調査で会った人たちは皆、不安に包まれており、話をしながら泣き出す人もいた。人目につくのを恐れてインタビューを断る人もいた。前日に同じ建物の住民が連行され、パニックになった人もいた。しかし皆、滞在許可がないということ以外はごく普通の人たちだった」。

 なぜ、政治家が非正規移民を問題にするのか。その目的は非正規移民をゼロにすることではなく、「国内にいながらの海外移転」だという話は目からウロコでした。

「非正規移民の大半が就労しており、業種が土木建設、飲食・食料加工・ホテル、育児・家事・介護の在宅サービス、農林水産業に集中していることに注目する。以上の業種は経済のグローバル化に伴って生産拠点を海外に移転した業種とは異なり、国内に生産拠点がなければならないため、海外移転はできない。それを踏まえたうえで、安く雇える非正規移民こそが海外移転できない部門の「国内にいながらの海外移転」を可能にしていると(エマニュエル・テレ仏社会科学高等研究院教授は)指摘した。
 こうした文脈で厳しく移民を取り締まると宣言することは、立場の弱い非正規移民に強い圧力を与え、劣悪な条件を甘受させ、声を上げにくい状況をつくり出す。
・・(中略)・・
 このように移民取り締まり政策はナショナリズムや治安の単なる反映でなく、「国内にいながらの海外移転」を強化し、より安価な労働力供給を促す側面を持っている」。
 
 
 その後、森さんは日本でも「国内にいながらの海外移転」は進行しているとしていますが、詳しくは本稿をご覧いただくとして。

 かねてから、外国人材について「高度人材」といった言葉が使われることに強い違和感を覚えていました。高度人材の受け入れを加速とか、人材、という言葉も使いたくないのに、まして高度も何もあるものか。こっちの社会だとか経済だとかの勝手な都合で人を格付けするもんじゃないだろう、と思っていたのです。

 その点、すとんと腑に落ちる言葉を森さんは語ってくれていますので、最後にご紹介しておきたいと思います。

「このようにこちらの利益のみ重視した形での受け入れでうまくいくのだろうか。そもそも自分だったら、こうした条件で日本に行きたいだろうか。
・・(中略)・・
 もちろん日本に好意的な外国人もいる。だが必ずしもこちらが思っているほど魅力的ではないという現実も謙虚に受け止めねばならない。まず立てるべき問いは「大量移民を受け入れるか否か」ではなく、「移住したいと多くの人に思われるようなエネルギーと多様性を持つ魅力ある日本社会をつくるには何をすべきか」ではないだろうか」。



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