2017.02.05
自治体の民営化-再び
こんにちは、大阪発公会計ブログ担当の船戸明(公認会計士)です。
昨日、とある研究会に1年ぶりくらいに出席しました。社外取締役を始めとするコーポレートガバナンスを主題とする研究会です。
月に1度の研究会は2時間。1時間ずつの2部制で、それぞれ1人がテーマを決めて発表し、その後20人前後の参加者が討議を行なうというスタイルです。
会場に入るや、ある方が「久しぶりだね」と声をかけてくださいました。そして、おっしゃいます。
「以前、フナトさんが発表されたアメリカの自治体の話、よく覚えています。今、まさに、その傾向が顕著に表れてきたんじゃないですか。フナトさんの先見の明ですね」
当たり前ですが、私の先見の明でもなんでもありません。約3年半前、ジャーナリスト堤未果さんの『(株)貧困大国アメリカ』(岩波新書)を読んで、自治体の民営化の話に驚き、研究会で発表したのでした。
2013年9月7日のブログに掲げた研究会でのレジュメを、再掲しておきます(再掲なので読み飛ばしてくださって結構です)。
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ハリケーン・カトリーナで大きな水害に見舞われたジョージア州。水没した地域住民のほとんどがアフリカ系アメリカ人の低所得層だったことから、アトランタ近郊の富裕層に不満がたまっていたそうです。
住民投票の上で得たベストの解決策が、自分たちだけの自治体を作って独立すること。大手建設会社CH2Mヒル社が、2700万ドルで市の運営を請け負う提案を行ない、富裕層との間で契約が成立しました。
正規職員は極力おさえ、契約社員を雇う。もちろん、組合は存在しない。被災地に関心が集まる中、2005年12月、人口10万人の「完全民間経営自治体サンディ・スプリングス」が誕生したのだとか。
この自治体、すごいです。
・雇われ市長1人、議員7人、市職員7人。
・警察と消防以外のサービスはすべて民間委託。
・24時間、無休のホットライン。
・住民は平均年収17万ドル(約1700万円)以上の富裕層と、税金対策の大企業。
この動きは周辺にも広がり、新しく5市が後に続き、独立特区を形成。もちろん、富裕層が抜けるのですから、その地域の公立学校や病院、福祉などは成り立たなくなるでしょう。それでも世界からも関心が高いようで、中国やサウジアラビア、インド、ウクライナなどから視察団が訪れているそうです。
堤さんの章を締める言葉が、胸に刺さります。
「サンディ・スプリングスが象徴するものは、株主至上主義が拡大する市場社会における、商品化した自治体の姿に他ならない。そこで重視されるのは効率とコストパフォーマンスによる質の高いサービスだ。そこにはもはや「公共」という概念は、存在しない。」(P.203)
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声をかけてくださった方が想定していたのは、もちろん、トランプ大統領を誕生させた社会の分断と格差のことでしょう。
ここ2週間のニュースを見ていて私が感じているのは、「権力の全能感が、恥と常識と想像力をいかに失わせるか」ということ。海の向こうだけでなく、わが方を見つめてみても、強く感じます。
そうして壊されていく状況にどう立ち向かえばいいのか。これについては、コラムニストの小田嶋隆さんの洞察がヒントをくれているように感じます。
ジョージ・オーウェルの『1984年』がアメリカでは再びよく売れているのだとか。そこで描かれていた世界が現実になりつつあると感じるのですが、小田嶋さんは恐怖をもとに人をコントロールする恐ろしさに触れ、こうおっしゃいました。
「私は、こういう時(つまり非常時)に冷静さを訴えてばかりいる書き手を信用しない。というのも、理性であるとか冷静さであるとか言った言葉は、われわれが事態を傍観する時の弁解として採用しがちなお題目だからだ。臆病な人間は、いつでも理性という言葉の後ろに隠れて自分の恐怖心を隠蔽しにかかる。そういうものなのだ」。
そして、こんなことも。
「マッカーシズムも、ナチズムも、戦前の日本の好戦的な空気も、ごく初期段階のおかしな兆候をアタマの良い人々が傍観しているうちに、巨大化して手がつけられなくなったものだ」。
全文はこちら
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/020200080/?rt=nocnt
そんな恐怖政治の担い手と、よりによってゴルフをしようという物好きな首脳もいるのだとか。カッコわる~、と毎日家族の話題に上っています。
私は恥ずかしいと思う。ゴルフをして得られる国益より、ゴルフをすることで失う国益のほうが遥かに大きいはず。恥も常識も想像力もない人がトップに立ち、それでいいのだという空気が蔓延し始めている現状を前に、それこそどう対応すればいいのか、考え込む日々が続きます。