2017.01.08
視点を変える
こんにちは、大阪発公会計ブログ担当の船戸明(公認会計士)です。
今日の日本経済新聞読書欄で、鳥取県の平井伸治知事が「私の読書遍歴」を披露されています。
たとえば、戦中の沖縄県で最後の官選知事を務めた島田叡(あきら)を描いた『沖縄の島守』(中公文庫)について。
「・・1人でも多くの県民を戦火から守ろうと心を砕きました。自らは死を覚悟しながらも、県民に対しては常に温かく接しています。内地から梅干しが届くと、自分は1つだけ食べて後は周囲の人にあげてしまうような人だったそうです」。
全編通じて朗らかに描かれている島田について、平井知事はこう語ります。
「「生きろ」と呼びかける人が意気消沈していては何も動かない。島田は自分を「作り」続けたのだと思います」。
「自分を作り続けた」という言葉に、どう回路が接続したのか、「ちゃんと寝て、ちゃんと飯食って、ちゃんと風呂入ってる奴にはかなわない」とどこかで誰かが言っていた(書いていた?)のを思い出しました。
続いて、幸田露伴の『努力論』(岩波文庫)について。
「露伴が『努力論』で主張しているのが、そこそこの幸せを追求しよう(惜福)、幸せはみんなで分かち合おう(分福)、将来のために幸せの種をまこう(植福)という「幸福三説」。理屈っぽいですが、東洋的、日本的な感覚で人間の生き方について論じている」。
鳥取県でもこの3つの福の追求に取り組んでいるという平井知事。
「少子高齢化社会や貧富の格差問題を考えると、従来のマネー経済とは違う新しい経済モデルが今こそ、必要なのではないか。効率は重要ですが、単線的なモデルでは社会が抱える矛盾は解決できないような気がします」。
この点、経済学者の水野和夫さんも『株式会社の終焉』(ディスカバー)の中で指摘されています。
近代以降、グローバリゼーションで、それこそ単線的に進んできたけれど、ついにこれ以上ないところまで到達してしまった。そこで提示されているのはまだ閉じた空間だった中世との対話です。
「本書で主張したいのは、あらゆる思考のベースを、近代システムのベースである「より速く、より遠く、より合理的に」から、「よりゆっくり、より近く、より寛容に」にしていくことです」(P.226、あとがき)。
今まで通り「経済成長」「GDPの伸び」に偏重した論考が多いのですが、既にその限界は半世紀以上も前から指摘されていること。世界の経済は、19~20世紀とは違う局面に入っていることを直視しなければならないと思います。
最後にもう1つ、平井知事の愛読書の中に『ジョークとトリック』(織田正吉著、講談社現代新書)が挙げられていました。
「薬」を下から読むと「リスク」になる。こうした視点を変えて物事を見ることの重要性を平井知事は語っておられます。
「私が鳥取を「スタバはないけど、すなば(砂場)がある」とPRしたのも、周囲の目を変えたかったためです。発想の転換さえすれば、私たちが日々見ている世界も変わってくるし、言葉の力はとても大きいと思っています」。
ちなみに、このPRを受けてできたカフェが「すなば珈琲」。2015年には、本当の「スタバ」もできたようです。
知事の発想の転換ではありませんが、私は数年前、自分に何ができるかを考えていて、「視点を先にずらすこと」と思い至ったことがあります。その時、こんな文章を書きました。
目先のお金のために、今、借金をすることが本当に必要か。
目先の売上を確保するために、今、チラシを撒くことが本当に必要か。
目先の人件費をカットするために、今、この人に辞めてもらっていいのか。
目先の問題に対して、
3年後、5年後、10年後への影響を考えてみる。
いや、もっと正確に言うと、
何年後かは分からないけれど、
少し長い目でものごとを考える。
そんな姿勢が大切だと思いますし、
ここ最近、そんな話をお客様とする機会が増えてきました。
今も、この気持ちは変わりません。今日も、明日も、明後日も。