2014.02.22
複雑なままに
こんにちは、大阪発公会計ブログ担当の船戸明(公認会計士)です。
さて、気力を振り絞り、先週ご紹介した松井一郎大阪府知事インタビュー記事(近畿C.P.A.ニュース2月号掲載)の続きについて考えます。
後半に登場するのが単式簿記と複式簿記の話題。聞き手は公認会計士協会近畿会の高濱会長ですが、まずは要点を抜粋してみましょう。
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知事「・・・複式簿記で会計制度を運用しているのは限られた地域だけなのですね。私も議会で長年おりましたけれども、単式簿記というのがよくわからないのですよ。」
会長「難しいですね。」
知事「難しいというか、私から見ると、借り入れが、収入に含まれるのはよく理解できません。これが財産なの?というのも、財産に含まれていたり・・・。だから、なかなか債務超過なのかどうかが見えてこないところがあって、企業会計と比べて、まだまだわかりにくいのです。複式簿記を導入して、今の大阪府庁の財務状況がどうかというのが見やすくなってきました。・・・(中略)・・・」
知事「単式簿記のほうが行政をやっている側は楽でいいのですよ。あんまり見えないから。だから、ぜひ、会計士の皆さん方に、各自治体の財務状況を一番わかりやすくするためにも複式簿記をやるべきだということを、どんどん声を挙げていただきたいと思います。」
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私も、「それなりに」複式簿記は大切である、ということを、このブログでも書かせてもらっています。
ただ、何度も繰り返し書いていることですが、「単式簿記vs複式簿記」という二項対立の単純な図式で複式簿記の方が優れている、とは考えていません。
単式簿記、複式簿記、それぞれに役割があり、それぞれに見えやすい部分、見えない部分がある。確かに、松井知事がおっしゃるように「今までやってきていることを変えるというのは、すごいエネルギーが」いるとは思います。ただ、その前段階として、今までやってきている制度にはそれなりの理由がある、と私は思うのです。
単式簿記が採用され、これまで継続していることには理由がある。そこに目を向けず、複式簿記の方が優れていると議論を単純化することは、それこそ「楽でいい」ですが、あまり実効性があるとは思えません。だって、複式簿記を導入するにしても、それを担うのは自治体の皆さんですので、その皆さんのモチベーションをいかに上げるかに、もう少し配慮があってもいいはずです。
鈴木健さんは、そのご著書『なめらかな社会とその敵』(勁草書房)の書き出しでこうおっしゃっています。
「この複雑な世界を、複雑なまま生きることはできないのだろうか」
国内か、「 」、海外か。
メダルを取れるか、「 」、取れないか。
道路を作るべきか、「 」、作るべきでないか。
人口減少を食い止めるか、「 」、このまま縮小していくか。
あまりにもたくさんの場面で、ものごとが単純化されすぎる風潮が強いと感じます。仕事か家庭か、と同じで、どちらも大事とか、こっちに比重を起きたいけれどムニャムニャとか、そういった「はざまの考え方」が上の「 」にあってもいいと思います。鈴木さんのおっしゃるように、世界は複雑なはずですので。