2014.05.31

2億人か9000万人か

こんにちは、大阪発公会計ブログ担当の船戸明(公認会計士)です。
 先日29日、株式会社ナガセの永瀬昭幸社長が日経新聞に、全面を使った意見広告を出されていました。
「人口2億人社会の実現へ インパクトある政策を」
 あえて議論の口火を切りたいと、人口2億人実現に向けた提言をする。
 その提言の筆頭が、第三子以降の出生に対し、国が1000万円程度の奨励金を出す、と。
 随分、思い切った提言だと思います。もちろん、そういう考え方もありなのかもしれない。ただ、申し訳ないのですが、私はこの提言に、「品位」を感じ取ることは出来ませんでした。
 いくつもわからないことがあるのですが、たとえば提言の冒頭にある「人口減少により、日本の国力は衰退の一途をたどる」という文章。あるいは、人口減に歯止めをと主張する人がよく口にする「活力がなくなる」という話。
 なぜ、人口が減少したら活力がなくなり、国力が衰退するのか。その論理的な説明がなされたことを、私は見たことがありません。
 そもそも、人口が減少する局面というのは、過去の歴史になかったこと。それを、どんな根拠をもって「活力」「国力」の減退に結び付けられるのか、よくわからないのです。
 かつ、人口減少というのは、これまでいろんなことを推し進めてきた「結果」であって、「問題」ではないはず。
 核家族化。
 医療の進歩。
 進学率の向上。
 女性の社会進出。
 そういったものを追求してきた結果、どの先進国よりもいち早く、人口減少局面を迎えることになった。そういった状況の変化に対し、人口を増やし、消費を増やし、成長率を高めないと立ち行かないというこれまでの発想で対峙することこそ、かなり時代遅れのものなのではないかと感じます。
 永瀬社長はおっしゃっています。
「第3子の出生祝いに1000万円の奨励金を出すことを提案します。2人の子どもがいる人にとって3人目の奨励金は、大きく出生を促進するでしょう」
 極めて現実的で、政策としてはありなのだと思う。でも、私はその根底にある考え方、つまり、お金を積めば人は動く、という思想に、強い違和感を覚えずにはいられません。
 そうやってお金をもらって3人目を産んだ家族は幸せなのか。
 そうやって生を得た3人目の子どもにどんな影響が及ぶのか。
 家族や子どもの、多種多様な幸せの形への配慮のひと言もなく、ただただ成長の一翼としての人口増加策。そこに品位のなさを見たのだと、私は思います。
 かつ、当たり前の話ですが、世界の環境変化がこれだけ問題になっている昨今。なぜ、日本が人口増加策を取れるのか。だったら、他国の人口増加も容認するのでしょうが、その場合、環境にどれほどの負荷を与えるのか。この点に関する言及もありません。
 水野和夫さんは『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書)の中で、従来の資本主義は、すでに限界に来ている、と指摘されています。拡大する「周辺」としての地理的・物理的空間を失い、金融緩和でだぶついている資金は、「電子・金融機関」に向かう。その必然としてバブルが起こり、もちろん崩壊する。
 アフリカの成長が叫ばれ始めた今、「成長」を余儀なくされた資本主義は寿命を迎えつつある。ポスト資本主義に明確な処方箋はないものの、ゼロ成長でもやっていける社会を構築することが必要と提言されました。そして、そのためには、人口を9000万人くらいで一定に保つのが理想的だ、と。
 2億人説と9000万人説。どちらに品があり、どちらに説得力があったかは、改めて申し上げるまでもありません。


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