2014.02.15
首長が語ること
こんにちは、大阪発公会計ブログ担当の船戸明(公認会計士)です。
私は公認会計士協会近畿会に所属しています。
その近畿会の機関誌に「近畿C.P.A.ニュース」という小冊子があります。かつて、とある文章を書かせていただいたこともあるのですが、その2月号に、「地方公共団体トップインタビュー」という記事が掲載されました。地方自治体のトップの方を訪ね、その政策や公認会計士に期待する役割などを聞くもので、トップバッターは松井一郎大阪府知事です。
いきなりびっくりしたのですが、松井知事の最初の言葉を引用してみましょう。
「まずは、長年言われ続けてきました大阪府と大阪市の二重行政・二元行政、このようなマイナスのスパイラルを断ち切るための新たな大都市制度をつくっていくことです。これは既に成功している事例があります。それは東京都です。今回、それがはっきり鮮明になりましたのが、まさにオリンピックの招致ではなかったかと思っています。ご周知のように、東京が2020年のオリンピック招致に成功しました。」
まず前段部分ですが、これは大阪都構想のことでしょう。その内容については賛否があるでしょうし、私自身も正確に理解できているわけではありません。ただ、疑問に思ったのは、「東京が成功している」という認識が果たして妥当なのかどうか、ということ。
たとえば、保坂展人世田谷区長は、今月5日、「大阪都構想の欠陥 東京23区の現実」という文章を公表されています(http://blogos.com/article/80155/)
詳細は触れませんが、その文章の中で、東京の特別区の抱える現実と矛盾に対しての理解の薄さを指摘され、次のように語っておられます。
「世田谷区は七つの県を上回る88万人という人口を抱えています。そこから感じるのは、東京の都区制度は必ずしもうまくいっていないということです。戦時中につくられた「特別区制度」は、人口規模も自治体実務をめぐる役割分担でも制度疲労が目立っているというのが今の実感です。」
私は、保坂世田谷区長のおっしゃっていることが正しいと言いたいのではありません。「あまり知らない」という点に関して、大阪都構想と現在の東京の都区制度に、選ぶところはない。そうではなく言いたいのは、都構想を推進したい人は、東京都がうまくいっているというしゃべり方をする一方、裏を返せば、都構想に反対の人は、東京都がうまくいっていないという言い方もできる。つまり、事例の引き方は、自分がどう主張したいかによって、まるで違ってくる、と。
先日、ある会でTPPの議論になったとき、ある方はオレンジの例を出し、オレンジが輸入されるようになってもみかんは大丈夫だった、といった趣旨のことをおっしゃいました。なるほど、TPP賛成、という立場からはそうかもしれない。
でも、たとえばメキシコでは、自由化によって主食であるとうもろこしをアメリカからの輸入が占めるようになり、自国のとうもろこし栽培は大きな打撃を受けました。その結果、アメリカで価格が高騰すれば、とうもろこしが手に入らないという事態にまでなっている。こういう事例は、TPP賛成の人は引かないでしょう。
事例の引き方には恣意性が入ります。なので、松井知事がおっしゃっている東京都が成功事例という言い方も、少し冷静に考える必要がある。私はそう思っています。
あと後段部分の、成功していることが鮮明になったのがオリンピック招致だという話。これもそうなのかもしれないですが、東京都政にとってのオリンピックなんて、ごくごく一部の話でしょう。一部、というのは控え目な言い方かもしれません。都民の「生活」にとって、殆ど何の関係もないようにすら感じます。
先ほどの保坂区長は、区が抱えている現場として、「子育て支援」「若者支援」「高齢者福祉」「障害者福祉」などを挙げられました。でも、松井知事のインタビューでこうした課題(おそらく大阪だって同じ問題を抱えているでしょう)が語られることはありませんでした。
オリンピックに始まり、語られたのは「成長戦略」「特区」「日本を一番企業活動がやりやすい国に」などなど。まるで、どこかの経済団体幹部の話を聞いているような気分になりました。
かろうじて防災対策が語られましたが、防潮堤強化して人命を守るという話はいいとして、並列で「南海トラフで大阪経済が大打撃を見舞われるということになれば、日本の経済は沈んでしまいます」と語っておられます。またまた経済の話。平たく言えば、「お金」の話ですね。
なぜにここまで企業的な価値観を、自治体の首長が語らなければならないのでしょうか。その理由が、私には理解できません。
もちろん、語り手の松井知事だけの問題ではなく、聞き手である高濱近畿会会長の合いの手の問題でもあるはず。いずれにしても、元大阪府民の私には何一つ響いてこないインタビューになっているのが残念でなりません。
最後の方には単式簿記など会計の話も出てくるのですが、そこにたどりつくまでにこちらのエネルギーが尽きてしまいました。気が向いたら、次回、引き続き触れてみたいと思います。