2014.04.26

財務書類の様式

こんにちは、大阪発公会計ブログ担当の船戸明(公認会計士)です。
 公会計の財務書類は、次の4つで構成されています(久しぶりに公会計の話題です)。
  貸借対照表
  行政コスト計算書
  純資産変動計算書
  資金収支計算書
 言うまでもありませんが、自治体にとって、利益を出すことは目的ではありません。そもそも、利益が出ないこと、非効率で民間ではどうしようもないことを引き受けるのが自治体の役割とも言えるでしょう。
 もちろん、だから非効率でいいということではありません。ただ、儲けを出せとか、効率よくやれ、という指摘に対しては、少し立ち止まって考える必要があると私は考えています。
 財務書類に話を戻します。そんな自治体の特徴は財務書類にも表れていて、単にコストや収益を示す行政コスト計算書だけでなく、純資産全体の動きを示す純資産変動計算書が重視されてきました。これまでも、そして、これからも。
 3年以上にわたって開催されてきた総務省の「今後の新地方公会計の推進に関する研究会」ですが、先月、「今後の新地方公会計の推進に関する研究会報告書」が報告され、新しい財務書類の様式も提示されています。
 報告書自体は、こちらから見ることができます。
http://www.soumu.go.jp/main_content/000281820.pdf
 この37ページ以降に、財務書類の様式が示されています。中でも、おっと目を引いたのが、40ページの「行政コスト及び純資産変動計算書」。
 先にも述べた通り、自治体の活動においては、純資産全体の動きを示すことが重要です。そして行政コストも、大きく見ればその純資産の動き(減少)の一項目でしかない。そう考えると、行政コスト計算書を独立した財務書類ではなく、純資産変動計算書の一構成要素と捉えることも可能なはず。
 そうした発想のもとで示されたのが「行政コスト及び純資産変動計算書」です。
 一見してわかるのは、その「見た目」の独特さ。良く言えば「斬新」、悪く言えば「見慣れない」。案の定、研究会においても、わかりにくいという指摘もなされていました。
 ただ、その指摘を聞きながら、1つ考えたことがあります。
 わかりにくい、って、誰にとってですか、と。
 わかりやすい、わかりにくい、というのは、所詮、主観的な話ですよね。自分たちの価値観から見てわかりにくくても、他の人が見ればわかりやすいかもしれない。あるいは、今の時代から見ればわかりやすくても、次の時代に見ればわかりにくいかもしれない。
 つまり、絶対的にわかりやすい、ということはあり得ないのだと思います。
「いい姿勢」について、誰にとっての(軍の上司なのか、学校の先生なのか)いい姿勢かによって、その姿勢は変わる。そう指摘したのは、『ことばが劈(ひら)かれるとき』(ちくま文庫)を書かれた竹内敏晴さんです。
 わかりやすい財務書類も同じでしょう。誰にとってのわかりやすさなのか。
 それともう1つ、そもそも自治体の活動自体、決してわかりやすいものではないでしょう。非常に複雑で、効率も悪く、数字で表現できないものもあるかもしれない。そういった複雑多岐にわたる活動なのですから、一見してわかるような財務書類に表現できる、という前提自体に問題があるような気もします。
 だったらどうするか。
 私が思うのは簡単で、とにかく作ってみる。何年も、何年も、一定の思想と規則に基づいた財務書類を作っていく。そして作る側も、見る側も一定の勉強をしつつ、歴史を積み重ねることで、共通言語としての財務書類が立ち上がる。そんなものではないかと思います。
 いろんな立場からの賛否があるのは当然ですが、もともと答えのない世界に新しいレールを敷こうとしている動きです。これまでの議論に敬意を表しつつ、じっくり眺めて、じっくり考えてみたいと思っています。


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