2022.07.03

複雑な事態は複雑なままに

こんにちは、大阪発公会計ブログ担当の船戸明(公認会計士)です。

『中学生から知りたいウクライナのこと』(ミシマ社)を読みました。ウクライナの隣国であるポーランド史を専門とする小山哲さんと、食と農の歴史の専門家である藤原辰史さんの、講義と解説と質疑応答から構成された緊急出版です。

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まって4か月以上。戦闘も長期化し、解決の糸口もつかめない中、報道される頻度も下がってきたような気がします。とはいえ、無関心ではいけない。他人事ではなく、アジアの火種を考えたら、自分ごと。いや、既に、生活への影響はじりじりと大きくなっています。

 3月15日、ネット配信された記事で、藤原さんはこう語っています。「歴史学をはじめ人文学の知は、このようなときに、悪い意味にも良い意味にも威力を発揮します。悪い意味、というのは、歴史の歪曲と国威発揚と「非国民」の確定のために用いること、良い意味というのは、過去の愚行の背景を知り、現在に生かすために用いること」(同書、P.26)。

 そのうえで、ロシアの行動は純然たる国際法違反であることを筆頭に、いくつかの指摘をしています。たとえば、個人の責めに話を単純化しないこと。「ヒトラーがクレイジーだったので第二次世界大戦と大量虐殺が起こったという説明では、誰がヒトラーを支持したのか、どういう国際情勢がヒトラーを追い込んだのか、という問いが消し飛んでしまい、それは歴史の皮相な理解でしかありません」(P.36)。

 さらに、信頼すべき研究仲間を持つことの重要性も強調されました。私は、これを、単一の書物や見解から物事を理解しようとしないこと、と解釈しています。「この1冊で分かる……」「30分で分かる……」というタイトルを警戒するように、複雑な事態になればなるほど、そう単純に全貌を理解できるはずがありません。今回の1冊で分かったことは、事態は極めて複雑だということと、自分がいかにそれを知らないのかということ。小山さんの中世からの歴史解説は、ウクライナ地域の複雑さを浮かび上がらせています。そして、ロシアも、欧米がたどってきた戦略と論理を援用しているにすぎないということ。

「イラク戦争で、アメリカ軍が空爆によってイラクの子どもたちを含む非武装の市民を殺した罪が消えたわけではありませんし、消してはならないと思います。……イラク戦争のとき、「アメリカの蛮行を認めぬ」と日本の首相やその周辺の政治家が言ったでしょうか。「イラクの難民を受け入れる」と言ったでしょうか」(藤原さん、P.40)。

 失敗を認めない。過去の失敗を総括しない。すべて「空気」のせいにして責任を不問にし、時間の経過とともにうやむやにしてしまう。そういう主体性のない中で防衛力を増強したところで、米国軍需産業を潤わせ、いざ有事となれば米国によって南西諸島がいいように使われるだけではないでしょうか。

 昨日、米国留学している子どもとオンラインで話す機会がありました。大学も、スポーツも、日常生活も、ともかくスケールが違う。そんな環境で自由を存分に謳歌するとともに、自由には責任が伴うことを自覚し始めていると、言葉の端々から感じました。もちろん、良い意味に作用することもあれば、悪い意味に作用することもあるとは思います。欧米人の押しつけがましさに辟易とすることもあるでしょう。ただ、自由と責任を基礎とした世界に身を置けたことは、今後の人生において、大きな財産になるはずです。いや、窮屈と無責任を基礎とした社会に復帰できるかどうかが、心配ではありますが。


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